夜中の1時に

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「近いのに、どうして引っ越してきたんだ?…っと。ごめん、言いたくなかったら言わなくていい。」 「別に親が離婚したーとか、学校でいじめにあってー、とかじゃないよ。元は1建家に住んでて、新年度からお父さんが転勤になって何年かは一緒に住めないって言うから、じゃぁ千尋の新しい学校の近くに引越しましょうかぁってなっただけ。無っ駄に金持ちなのよ、親。」 「じゃあ、アパートにいるのは君とお母さんだけ?」 「そうだよ。おかーさんはお隣でぐうぐう寝てます。」  悠介は壁に掛かっている時計を見て、時間を確かめたようだ。 「2時に近いな。もう戻りなさい。煙草は十分吸っただろ。」 「はぁい。」  千尋はそう返事すると立ち上がった。悠介に体を押されるように玄関へ向かう。見下ろされながら靴を履き終わり、ドアノブに手をかけた所で振り返った。 「ね、明日も来ていい?まだ早めに来るから。」 「外で吸われるよりはいいからな。いつでも来てもらっていいが……」  悠介はそこで言葉を濁した。何か考えているようだったが、すぐに何か思い付いたらしい。 「携帯のアドレスを教えておこう。来る時は事前に連絡してくれ。」  まさかついさっき知り合った人間に、また来てもいいよと言い、アドレスを教えるとまで言うとは思わなかった。  驚きで少し呆然としている千尋の携帯を受け取ると、悠介は電話帳に登録したらしい。携帯をすぐに戻してきた。 「じゃあな。」 「あ…うん、それじゃ。」  はっとして慌てて扉を開け、外に出る。扉が閉まる時になって、いつもの調子が戻ってきた。 「お休みっ。」  かすかに悠介の笑った顔が見えて、知らないうちに千尋は微笑んでいた。  聞きたい事、話したい事がいっぱいある。  3月の始め。まだ外の空気は冷たく澄んでいた。
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