夜のお茶会

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 冷たい空気に気持ちがスッキリするから、夜吸うのが好きだ。だがこんな暖かな昼間に吸うのも気持が良い。千尋はすっと目を細めて、左手に持った煙草を吸う。ゆっくりと吸い込んで細く吐き出した。  目の前で、かすかに白い煙が舞い上がっていく。白い煙は雲の色と混じって、すぐに分からなくなる。  自分の過去も、自分の気持ちも、自分自身も……全部、全部こんな風に消えてしまえばいいのに。  死にたいとは思わない。かと言って、生きたいとも思わない。学校では友達に優しい言葉をかけて気に掛けるのに、テレビで名前も知らない学生が自殺したニュースを見る度に、死にたい人間は死ねばいいと感じる。他人に対して優しくする所もあれば、突き放す感情もある。他人からの評価を気にする所もあれば、他人から何を言われてもどうでもいいと思う所がある。自分の中に矛盾する感情が沢山ありすぎて、何が自分なのか分からない。自分に対して一番はっきりしているのは、自分は自分自身を大切だとは思わない、と言う事。  ……そんな自分を愛して、満たしてくれる人なんて、いない、と言う事。  煙草を吸い終わった後にお風呂に入り、その後はリビングで本を読んだりぼぉっとしていた。気付くと母親がそろそろ帰ってくる時間で、言われていた部屋の片づけには一切手をつけていない。あ~あ、と思ったが、結局本を読む手を休めなかった。そうしている内に、玄関のドアが音をたてる。 「ただいま~。…なぁに、結局、部屋片付けなかったのね。」  休みの日は一日中自堕落に過ごしているのを分かっているから、リビングに入ってきて言った言葉も、怒りはしていないが苦笑を含んでいた。 「お帰り。…ご飯適当に食べて、ずっと本読んでた。」 「そんなんじゃ、いつまで経っても片付かないわよ。」 「ん~。…気が向いたら片付けるよ。」  ちゃんと片付けるのよ、と言いながら母はお風呂場に向かった。それを見て千尋はキッチンでご飯を炊き始める。お風呂から上がって夕食を作り始めるだろうから、早めに炊き始めた方がいいだろう。炊飯器をセットして読書を再開すると、程なくして母がお風呂から上がってきた。着替えると、泊まりの用意をし始める。 「ご飯、セットしといたよ。」 「あら、ありがとう。今から夕食作るから、もう少し待ってて。」 「じゃぁ出来るまで、部屋の片付けしよこうかな。」
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