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あの後、全身に痛みが走り、視界は真っ赤に染まった。
ただ、死にたくないと思い続けた。
「あ~あ、これはこれは、えらいことになってますなぁ。あんさん、生きてますか?」
私はうっすらと目を開けると、野次馬の前、私に一番近いところに彼は居た。
癖のない黒髪に赤い瞳は片方に細い布が巻いてある。
黒い革のロングコートを着て、彼はにこにこと笑っていた。
野次馬たちは私が意識を取り戻したことで落ち着いたようだが、彼のように笑っている者は居ない。
「おっと、喋らん方がよろしいでっせ。あっしの姿はあんさん以外に見えてません。喋ったら怪しいと思われますで。」
彼は笑いながら、膝を曲げると、私を見下げる。
「あんさん、生きていたいですか?」
私は頷くしか出来なかった。
死にたくないから。
彼は笑うのを止めると、驚くべきことを話し出した。
「あっしは名も無きただの死神です。あんさんに命をあげる代わりに、このことを黙っていて下さい。それで契約は成立します。」
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