民宿『潮風』

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久しぶりの甘い時間に酔っていると、ケンちゃんが「あー」と言いながら私の顔のすぐ隣にボスッと項垂れる。 「ど、どうしたの?」 充電が切れたロボットみたいに静止するケンちゃんの背中を軽く叩く。 「約束してたのにー。俺ダメだったー」 耳のすぐ傍でケンちゃんが深いため息をつく。 「何が?約束って?」 訳が分からず背中を叩きながら問いかける私。 「おじちゃんに『留守中は手を出すな』って誓わされたのにー」 「は?お父さん?」 「だから俺は『泊まりは無理だ』って言ったんだ」 ゴロンと私の横に寝そべり、目元を手の甲で覆っているケンちゃんは本当に反省しているみたいだった。 「だいたいハルが何で此処で寝てんだよ」 ちょっと八つ当たりですか!? 「ち、違う!ケンちゃんが『どこも行くな』って言ったんじゃん!」 真っ赤になりながら反論すると「嘘だ」と全否定された。 「本当だし!しかもそっちが抱きついてきて離れないから仕方なく!」 「嘘だ。俺が目が覚めたときはハルが俺に抱きついてた」 「んなッ!何ぃ!?」 ケンちゃんの胸元をグーで叩くと、鼻をギュっとつままれた。 お返しに足のスネを蹴ると「痛!」と言って、今度は腕を私の首に巻き付け軽く締めてくる。 さっきまでの甘い時間はどこへやら、結局またプロレスごっこになってしまう。 ふと時計に目をやると朝の6時になっていた。 「ヤバ!ケンちゃん、朝食!」 二人で慌てて飛び起き、調理場へ走る。 廊下を走ってケンちゃんの背中を追うと、いきなり足を止めたケンちゃんにぶつかった。 ぶつかって地味に痛い鼻を擦りながら「何?」と彼を見上げる。 「今度は俺たちが旅行に行こうぜ」 無表情でそう言うと再び歩き出すケンちゃん。 唖然とする私をよそ目に調理場へ入ろうとした一瞬、こちらをチラリと横目で見て 「色々と俺の我慢も限界みたいなんで」 そう言ってケンちゃんは調理場へ消えていった。 …それは、つまり…… ボンッ!! 取り残された私の頭が爆発した。 みなさん、私、結構好かれてるみたいです。 【番外編 おわり】
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