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へらへらとした笑顔で殺人鬼は肩に刺さった氷柱を抜いた。普通なら抜いてしまえば出血多量で死んでしまうかもしれない事をやったのだ。いくら幼い少年の容姿だからと言ってもそれくらいはわかるだろう。そしてその氷柱を投げ捨てた。
殺人鬼の思いがけない行動にワンピースの少女は目を見開いた。それくらい予想外だったらしい。
「貴方って、馬鹿?」
「違うよー。だって邪魔じゃん」
「……本当にイカれてる」
「ひっどーい。ボクって硝子の心をしてるから今のですっごく傷付いたー。食べちゃうぞー」
「どこがよ。それに私は、貴方なんかに食べられないわ」
ふと、ある男を思い出していた。飄々として妙に笑顔が多い同僚を。しかし、今ワンピースの少女が目にしている殺人鬼はその同僚よりも質が悪い。
「かなり嫌いなタイプよ、貴方は」
「つれないなぁ。ま、君に嫌われたからって何も感じないんだけど、ね!」
言葉と共に殺人鬼は地面を蹴った。常人のものよりかなりの鋭さを持つ爪が、ワンピースの少女の喉元へ向かっていた。
ワンピースの少女はうっすらと口角を吊り上げると、突然殺人鬼の目の前に炎の壁が現れる。炎の壁にぶつかる寸前、間一髪といったところでぴたりと動きを止めた。
「さっきから詠唱無しとか、反則じゃないの?」
「使える力全てを使ってでも、貴方を止める義務があるの。まぁ、私と遭遇したのが運の尽きね。あいつの方ならよかったのに」
手を伸ばせば互いの急所に届くまでの位置に、二人は向かい合っていた。基本、魔術を扱うには言葉を媒介にして発動させる必要がある。しかし、ワンピースの少女はその媒介を使わずに魔術を発動させた。これは殺人鬼にとって意外だったのだろう。だが、詠唱無しで魔術を扱えるのなら、殺人鬼の肩に刺さった氷柱の理由を説明できる。
殺人鬼の衣類は焦げ付いたような匂いを漂わせ、目の前の少女に微笑んだ。
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