空白の夜

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   二人の言っているフェンリルとは所謂ギルドの名称の一つである。同じ職業に就いている者が多数存在し協力する組合の事をギルドと言い、ギルドにいくらかの金を支払うことで、新技術の伝授や情報を得ることが出来る。その中で三大ギルドと呼ばれている冒険者ギルドの『ユピテル』、魔術師ギルドの『フェンリル』、シーフギルドの『ターコイズ』があり、つまり二人は、その魔術師ギルドであるフェンリルに身を置いている事になる。青髪の青年の左手の甲に記された印はその証拠となる。 「こんなに暑いのに平気そうな顔してっけど暑くねぇの?」 「問題ない」 「そういう問題か? ……ああ、もう! なんでもいいから冷えたもん食いたい飲みたい!」 「そう」  言葉のキャッチボールが出来ているか微妙な所だが、会話が行われている。少ししてから先程の門番が現れ、応接間まで案内すると二人に言い渡した。  屋敷内は外に比べて涼しく、室内ではあるが小さな噴水が置かれており涼しげである。二人はただ無言で門番の背中を追っている。門番はいたたまれないのか少しずつ早足になり、すぐ応接間へと辿り着いた。 「では、私は失礼します」 「お疲れさん。ばいばーい」  青髪の青年は門番に手を振り、悪戯が成功した子供のようにくすくすと笑う。どうやら応接間へ早急に向かいたかったようだ。結果、無言の圧力により門番は急ぎ足で歩いていた。門番が見えなくなれば、青髪の青年は応接間の扉を開き、待っているであろう領主を見据える。  二人の視界に入ったのは皮張りの椅子に座った、ふくよかすぎる体躯に優しそうな顔立ちの中年男性とそばかすのある、無表情で中年男性の傍に佇むメイドの二人のみ。 「ええーと、貴方がこの街のお偉いさん?」 「ああ。ルビアの領主をさせてもらってるよ。二人とも、座って」  優しげな声色の通り、二人は中年男性の向かい側にある多人数が座れる皮張りの椅子に腰掛けた。  領主と二人の間にあるテーブルに冷えた飲料水が置かれる。無表情のメイドが用意した物だろう。 「外は暑かったろう? 安い葡萄のジュースだけど、それで喉を潤してほしい」  安い葡萄とは言うが、色濃く鮮やかで艶のあるジュースは民間の者から見ればそれなりの値打ちがするだろう。青髪の青年は苦笑いを浮かべて、冷えた葡萄ジュースに口を付けた。  
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