銀の森に憩う月

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《中庸の御城》 迷い込んだ思考の御城は 恒久的中立地帯の最前線 流れ弾や矢に穿たれて 崩れそうな城壁の内側 柔和な顔の裏に隠れた 堅固な門に守護されて 声高らかに歌う麗しの姫は 全てを放棄した成れの果て 剣も叡智も役には立たぬ 迷える名も無き勇者等は 戦にその身を投ずるのみ 鏡の向こうの己が映すは 未来の栄光か 過去の幻か 一兵卒の描く気儘な夢と 野心家の抱く貪欲な望み 唆す月と太陽は空を飾り 見上げる者を照すばかり 天を突いて風を起こして 天変地異を奇蹟に換えて 涸れた海原で待つと囁く 声は変幻自在の色を持つ 誰の許にでも届く様にと 迷い込んだ思考の御城は 混迷の時代が築く最前線 中庸に従う意志は誇らしくも 餓えた脳の餌食と成り下がる 今しも崩れそうな城壁の内に 麗しくも空虚な理想を遺して
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