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「……誰、キミ」
ひとり言を聞かれた恥ずかしさと幻想的な美しい少女への気恥ずかしさから、ついぶっきらぼうな物言いをしてしまったが、彼女は気にもせずまたふるふると笑った。
「ごめんね、でもなんだか可笑しくて。
こんな雨の中紫陽花をまじまじ見てるなんて、風流人なんだなって。
人は見た目に寄らないっていうか」
見た目に寄らず?
初対面の男に対してなんて失礼な娘なんだ。
褒められているのか貶されているのか分からない。
「悪かったね、挙動不審で。
でも中身も見た目通りで風流人でもなんでもない。たまたま目についただけだし」
ぶすくれた表情をしているだろう俺の顔を見て、彼女は本当に可笑しそうにくすりと笑みをまたひとつこぼす。
「そう、そっか。たまたま……ね。
綺麗でしょう?このお花」
そう言うとゆっくり細く白い手を伸ばし、しなやかな中指と薬指で緑色の花弁をするりと撫でる。
それを見て、俺は何故か……まるで俺自身が彼女に触れられたかのように、自分の中心がどくんと脈打つのを感じた。
身体が、熱い。
「あ……まぁ、珍しいけど。綺麗だと、思う」
悟られぬように言葉を繋ぐ。
少女は俺の言葉を聞くと嬉しそうに眼を細め、緩やかに口角を釣り上げた。
「うん、そうなの。綺麗なの。
でもね、誰も見てくれないのよ。こんなに綺麗に咲いてるのに、見向きもしないの」
「え……」
彼女の深海のような瞳に急速に盛り上がった涙が震え、つ……と頬に流れる。
それを微笑んだまま指で掬い、彼女は雨に打たれるのも厭わずにそのまま俺のほうへと差し出した。
「貴方だけよ、見てくれたのは。私嬉しい。
ねぇ……触って、認めてよ」
彼女の紡ぐ言葉のひとつひとつが、細胞をたぎらせるようだ。
その瞳に誘い込まれるようにして、俺はよろよろと彼女のほうへ二、三歩進んだ。
雨に溶けた涙を探すように、冷えた白い指にそっと触れる。
「なぁ、もしかしてキミはーーーー」
「……ッ!………おいッ!」
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