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土砂降り紫陽花
雨だ。
よく大雨は「バケツをひっくり返したような」などと例えられるが、今日のはバケツどころじゃない。水をいっぱいに張った風呂釜でもひっくり返したみたいだ。
水の塊が道路のあちらこちらで暴れまわり跳ねまわり、さしている意味の無い傘を叩きつけながら地面に対流を作っている。
雨をかき分け進む度、地面に溜まった水と泥がひとつ、またひとつ、先週買ったばかりのスニーカーにバシャバシャと染みをつけた。
「ちっ」
思わず出た舌打ちは雨音に掻き消され、世界が傘の内側で孤立しているかのような錯覚に囚われる。
水をたっぷり吸った開襟シャツとズボンはずっしりと重く、斜めがけにしたエナメルバッグは不快に肩に食い込んで痛い。
「これでもまだ、梅雨じゃないのかよ」
連日続く雨を呪いながら特に酷い今日の泣き空を恨めしく見上げ、立ち込める厚い雲のせいでいつもよりほの暗い帰り道を急いだ。
白線を跨ぐようにして横断歩道を渡り、遊具ばかりが濡れていく無人の公園を通り過ぎ、雨水の流れに足を突っ込まないよう気をつけながら進む。
「……ん?」
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