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味噌汁を啜りながら、傍らに座っている母を見遣る。
瞬きすらせずに、じっと此方を見据えていた。
その表情はとても、嬉しそうだ。
それに破顔しながら、口を開く。
「……食べないの?」
訊ねた言葉と共に、視線を食卓に向けた。
そこには白い湯気を起てている食事が鎮座している。
まるで用意したのを忘れてしまったかのように、一つも手がついていない。
けれど、こんな問い掛けは既に形骸化したものだった。
母は、いつもこうだ。
何よりも我が子である、僕のことを最優先として見る。
自身のことなんて、二の次とでも言うように。
そして、幾ら心配しようとも何かを変える訳でもなかった。
それに何か提言した処で、母を苦しめるだけだ。
その事実がわかっているから、今日も何も言わずに視線を外す。
「――ごちそうさま」
言い終えて、食器をキッチンへ運ぶ。
慌てて母は足を浮かせたがそれを制止した。
「いいよ、僕がやるから。母さんはソファにでも座ってて」
言い包めると、冷たい水に手を晒した。
静かに息を吐き出すと、泡に塗れた食器を洗い流す。
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