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叫び声を上げて、飛び起きた。
どうやら酷くうなされていたようだ。
身体中に嫌な汗が浮かんで、気持ち悪い。
未だ、激しく鼓動を刻む心臓を押さえつけると、ゆっくりと見回す。
薄暗いが、確かにここは家のリビングだ。あの湿った路地裏ではない。
それに安堵して、ソファから腰を上げた。
窮屈なスペースに嵌っていたからか、妙に体が軋む。
錆びついたような、鈍い感覚を振り払うようにして、脱衣所に向かった。
やはり、どうにも心地が悪い。
皮膚の上を舌で舐められたかのようで。
そんな想像で、ますます気分が悪くなる。
込み上げる吐き気を抑えて、シャワーを浴びる。
ふと右手を見遣ると、いつの間にか白い包帯が取れていた。腫れも収まってきている。
この怪我を負ってどれほど経ったのだろうか?
一週間? 一ヶ月? 一年?
思い出そうとして、それすらも出来なかった。
記憶を掘り起こそうとすればするほどに、曖昧になっていく。
溜息を吐いて、浴室から出た。
無理に思い出そうとしても、余計疲弊するだけだ。
だったら、思い出さなくてもいい。
嫌なことはすべて忘れてしまえばいいのだ。
今までも、そうして来たのだから。
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