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濡れた髪を適当に拭いて、脱衣所から出る。
気づくと、雨の音は止んでいた。
どんよりとした雲が空を覆っているのだろう。
今は、梅雨の季節だ。
連日、雨が降っていても当然なのかも知れない。
そう考えて、自然と足は玄関へ向かっていた。
久しぶりに、少し外に出てみようか?
どうにも頭が煮詰まって、浮かぶものも浮かばない。
先程はすこぶる気分が優れなかったが、今はそうでもないのだ。
気分転換にと思い立って、玄関の扉の取っ手に手を掛けた。
瞬間――鼓膜に響く、電子音。
それが何かを理解するのに、酷く時間が掛かった。
……そうだ、これは。
誰かが、この家に訪ねてきたのだ。
けれど、誰だろう?
隣の優しそうな婦人だろうか?
それとも、草稿待ちの編集者?
もしかしたら、訪問販売の人かも知れない。
不自然に高鳴る鼓動をさして気にも留めずに、取っ手に力を込める。
静かに開いた隙間から覗いた人物に、僕は強烈な既視感を覚えた。
どうしてコレが、ここに居るのだろう?
確かにあの時――僕が、殺した筈なのに。
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