25人が本棚に入れています
本棚に追加
「安藤さんでしたっけ、俺は藤堂平助です。宜しくお願いします」
胡散臭い笑みを貼り付けながら青年は名乗る。
もっとも目は笑ってなどいなかったが。
「此方こそ宜しくお願いします」
安藤は言葉を返し頭を下げた。
表面上は礼儀正しく、内心を偽って。
賑やかであった部屋の雰囲気だけでなく鳥の囀りまでもが静寂に呑まれた。安藤は頭を下げたまま動かない。
沖田をはじめとする永倉、原田、山南、近藤……。
そして藤堂までもが困惑の表情を浮かべ、視線を安藤に向けていた。
「……安藤君、頭を上げてもらえないだろうか」
近藤が静寂を裂く。
「近藤さんがそう仰るのであれば」
静寂に呑まれる原因を作った張本人は音も立てずに頭を上げた。正面に座っている近藤と目が合う。
頭を上げさせたのは良かったものの、何を言って良いのかさっぱり分からないというところだろうか。
近藤は黙り、見かねた山南が助け舟を出そうと口を開く。
「剣術はそれなりにと斎藤君から伺いました。差し支えが無ければ流派を教えてもらえないでしょうか」
「流派……ですか」
語尾が自然と小さくなる。
最初のコメントを投稿しよう!