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忘れましたでは流石に駄目だろうか。
記憶の糸という糸を引っ張ってはみるが、師であった男の顔がうっすら浮かぶだけで流派が何であるのかは分からない。
師があえて教えなかったのだろうか。
ただ単に人を殺める為の剣術だったからだろうか。
それとも─────
「私の習った剣術に名はありません。
ですから、表向きは北辰一刀流ということにしてもらえないでしょうか」
そうした方が私も皆さんも都合が良い筈です、と続け此方を睨み付ける藤堂にちらりと視線を向けた。
視線が山南と安藤の二人に集中する。
「北辰一刀流と言い通せる自信はありますか」
「あります。幸い見様見真似で何かを覚えるのは仕事柄慣れてますので」
即答する安藤に山南は苦笑しつつ、藤堂と安藤を交互に眺め近藤の目を見た。近藤は無言で頷く。
「条件付きで構わないのなら、認めましょう」
二人の遣り取りに永倉は何かを察したのだろう。沖田から少し離れて座る藤堂を見て近藤と同様無言で頷いた。
原田には分からないらしく首を傾げ沖田に声をかけたが、沖田は手元にある冊子の内容が面白いのか一言も返事を返してくれない。
春本ではないらしく、目を細めよく見ると豊玉発句集と書いてある。
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