序章/唄

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ズタズタに裂かれたカーテンが夜風に靡く。 硝子の破片を浴びた書類は床に散らばり、卓上で山積み状態だった本は呆気なく崩れ落ちていた。   「心配無い。お前が死ねば全部終わりだよ」 満月が輝く、静かな夜だった。 かつて書斎として扱われていたこの部屋で少年と男は睨み合う。 「おや、今日は随分と面白いことを仰りますね。 アンタ如きに命を奪われるほど私は弱くないですよ」 男は少年を嘲笑うかのように微笑んだ。 少年は刀を構え直すと静かに口を開く。 「本当にそうかな。 まあどちらにしろ、この刀は誰にも渡さないよ」 銀色の刃が窓からの月光に照らされる。月が雲に隠れたと同時に少年は動いた。 ──────ガキィィンッ 耳障りな金属音。 刃が交じり合い、火花が散る。 「今度は何を仰るかと思えば……くだらない。 子供の貴方にも分かるでしょう、その刀の価値くらいは」 少年の一撃を男は左手に握られた小太刀で止めた。恐ろしい程容易く。全力で斬り掛かったのにもかかわらず男の左腕は微動だにしない。 勝つか負けるかの真剣勝負だというのに、その音が懐かしいと感じるのは血筋か幼い頃の教育か。 男の嘲るような顔に対して少年は笑みを浮かべた。 愛らしく、純粋に、そして時に残酷な表情だった。 それはまるで気に入った玩具を見つけた子供のように。 「分かるよ。だからこそ、僕はこの刀を手に入れたんじゃあないか」 紫に変色した瞳が、少年を語っていた。 同時にその瞳は間違いなく男の一点を捉えている。 狙いは、胴だろうか。
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