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───文久三年、京。
もう夜は明けたというのに、その一室だけは未だに灯りが点いている。
行灯に照らされた影と筆を滑らせる音だけがこの部屋を支配していた。
「終わりそうにねぇか」
鳥のさえずりに動きを止め、影の主は部屋中を見渡す。
周りを見渡せば一面に紙紙紙。
文机も殆ど山積みになった書物と硯や筆などで埋もれていた。
辛うじて埋もれていないのは布団ぐらいだ。最も、その布団も目の前で勝手に使用されているが。
「………はぁ」
溜め息の先に紙の山。
本当は今すぐにでも布団に飛び込んでしまたいのだが、やる事が山のように残っている為寝ることが出来ない。
そして机に向かっている内に夜が明けてしまったという有り様だった。
そんな状況にも関わらず、大の字ででーんと布団を占領している図々しい少年。
『どーした、寝るのか?眠いのか?』
「どの口が言うか」
『俺泣いちゃうぞ』
少年はのそのそと文机に近付きながら語尾に星でも付いてそうなくらい爽やか風に決めた。
童顔だと効果は全く無いというのに。
「もう帰れお前」
『……パンナコッタ!!』
暫しの沈黙。
「……は?」
『嫌なこった!!』
「あぁっ……て、ふざけるなよ」
整った顔立ちに黒の着流しを着た男は顔を歪め、机に視線を戻すと二度目の溜め息を付く。
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