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少年が男と過ごすようになって暫く時が過ぎた。
少年は相変わらずゴロゴロと布団を転がり回り落ち着きが無い。
男───土方歳三は机に視線を戻すと本日三度目の溜め息を付く。
やっと終わりが見えてきたが、睡眠をとっていないせいか筆がどうしても進まない。
さぁて、どうするか。
一時停止状態の土方に少年は寝っ転がったまま声をかける。
『昨日来た臨偽(リンギ)、凄く良い奴なんだ』
「……そうか」
背中越しに聞こえる声には微かな震え。
動かしかけた手を止め、筆を置いた。
『――また世が荒れるよ』
「分かってる」
返事と同時にふと、土方の脳裏に過ぎる。
少年はどこかで臨偽が来ることを予想していたんじゃないかと。
「……そういやぁ、臨偽の名を聞いてなかったな」
『今の名は安藤だよ、安藤早太郎』
少年は臨偽の名を改めて口にする。
一応俺の上司なんだけどね、と一言付け加えたことに土方は気付かない。
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