其の一角 泣いた紅鬼

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「お前もか! お……をおおおあお前も! 俺達を! ひ……姫様と俺を! 殺しに来たんだな! そうなんだな! そうそうそすそうおすおっそうそそすんんんんんんんだな! この……鬼が! 鬼が! 鬼が! 鬼が!」 男がチェーンソーの様な刃の回転する大刀を振り上げる。自身にその刃が届くか届かないかの、長い様な短い様な時間、彼女は恐怖を感じなかった。ただ、自分が腹立たしかった。鬼とカサと言う単語につられ、カン違いを起したのだけではない。自分が、一体何をしようとしていたのか。たとえ自分の村を襲い、その村の人間を一夜にして全滅させた鬼傘の侍が相手でも、それを殺してしまったのでは自分も同じだ。この狂気に染まった、目の前の鬼笠と同じだ。 ――人殺しだ。 「ホント……最後まで……何やってんのかしらね……」 そして、烏酉は死んだ。誰がどう見ても死んだ。肩からバッサリと、斜めに身体を切断された。金属の刃が耳障りな機械音を立て、肉を斬り、骨を断ち、烏酉を肉塊に変えた。 「全く……俺も甘いよな」 鬼笠の男はその声の主を探す。そのセリフは、遅れてきた赤龍の言葉だった。赤龍は静かに、烏酉の死体に視線を落としながら話す。その言葉は鬼笠の男には向いていなかった。 「侍は絶対に人を守る事が出来ない。そんなの解りきっていた事だろうが。何でこんなに必死になってんだろうな。全く……忘れていたよ。俺の復讐する相手は……本当の仇は誰なのか」 参年前の惨劇。胸に巨大な十字傷を刻まれ、殺された最愛の女性。復讐すべきは赤鬼の面を被った男。そしてもう一人の仇は……。 「不様に何もすることが出来なかった俺自身だ……」
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