其の一角 泣いた紅鬼

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「鬼いいいいいいいくぁwせdrftgyふじこlp;@」 言葉にならない咆哮をあげて鬼笠の男は斬りかかる。大剣を模した巨大なチェーンソー。唯(ただ)の刀ではその刃を受け止めただけで粉々に砕けてしまうであろう。しかし、赤龍の刀は違った。赤龍の持つ何の変哲も無い刀が、業火を纏う。炎は、まるで龍のように荒ぶり、くねり、巨大になる。そして、炎が振り払われたとき、刀は巨大な大剣に変わっていた。赤い刃に龍が巻きつく様な装飾が施された、身の丈の三倍はあるであろうその剣を、赤龍は右手で軽々と操り、鬼笠の男の斬撃を受け止めた。 「ななななんああああ?」 鬼笠の男はさらに力をこめて赤龍の刃をへし折ろうとする。回転する刃は赤龍の大剣とぶつかり合い、火花を散らす。しかし、赤龍は全く動じない。 「お前にこれは折れないだろう。なにせ、龍王刀は俺の精神(こころ)その物だからな。何人たりとも、俺のこころは折れない。折れさせはしない!」 鬼面の男と出会ってから身に付いた異能の力。刀を媒介にイメージを具現化させる能力。故にこの刀は赤龍の復讐心その物だ。折れる訳がない。赤龍は無言で鬼笠のチェーンソーをはじき返した。その衝撃で鬼笠の男がよろめく。 「終わりだ」 その隙を赤龍は見逃さなかった。赤龍は竜王刀の鋭い切っ先を相手に叩き込んだ。突きである。瞬間、鬼笠が空を舞い、男の体が代官の館の中へ吹き飛んだ。しかし、赤龍は突きを鬼笠の男に叩き込んだときの違和感を拭えなかった。人体に突き刺さった感触はしなかった。何か硬い鉄の様な物で攻撃を防がれた感触。寸での所で自身の武器を盾に使ったのだろう。 「未だ終わっていないか……」 赤龍はゆっくりと代官の館へ歩を狭める。鬼模様の笠を踏み潰した気がしたが、気にはしなかった。そこに転がった烏酉の死体を一瞥して、赤龍は走って門の中に入って行った。 赤龍は男の後を追って屋敷の中に入って行く。中は正に地獄絵図だった。バラバラでグチャグチャな、かつて人だったオブジェ達が並んでいた。そんな中、男が立っていた。ひしゃげて所々から火花が散っているチェーンソーを手に持ち、濁った泥の様な瞳で虚空を見つめているその男の額には、角が生えていた。
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