其の一角 泣いた紅鬼

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「お前……鬼か?」 『鬼』。近頃、巷で出現した異形の存在。そして、それらの出現の時期と鬼面の男の噂が流れた時期は一致する。 「シュテン童子(どうじ)を知っているか?」 静かに赤龍は問う。目の前の鬼に、己が最愛の女性を奪った忌むべき者の名を。シュテン童子。朱天童子とも酒呑(童子とも呼ばれたそれは、まるで都市伝説の怪人のように、民衆から恐れられる。実在する証拠は一切ない。ただ、それが町に来たら、誰一人として生き残ることは出来ないと実しやかに言い伝えられている。しかし、竜童赤龍はシュテン童子と対面して、こうして生き残り、そして今追っている。鬼面の男、シュテン童子と異形の鬼。恐らくシュテン童子が昨今の鬼による怪事件の鍵を握っている。故に目の前の鬼もシュテン童子と対面していたとしてもおかしくない。 「もう一度言う。鬼面の男、シュテン童子を知らないか?」 「鬼……おおおおっ俺達を……姫様をおおお……シュテン……あああああああああ!」 その瞬間、鬼笠の男が急変する。角はさらに太く、大きな物となり、体が変色する。紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く。 「をおおおおにいいいいいいいがああああああ! 渡さんぞ! 姫様は守る! 俺がおおおおれがあああああああああああ!」 奇声と共に真紅(まっか)な鬼が、紅鬼が襲い掛かる。もうこの鬼からは何も聞き出せない。そうわかると、赤龍は竜王刀を構える。竜王刀を大剣の形から中刀の形へと変える。黄金の龍が巻きつく装飾が施された紅い刃だ。赤龍の能力『竜王刀』は想像するだけで刃の大きさ、切れ味、重さなど、自由に変えることが出来る。この方が室内では動きやすい。 「仕方ない……鬼退治とするか」 紅鬼は既にひしゃげて使い物にならなくなったチェーンソーを振り上げる。赤龍は難なくそれを避けるが、その一撃で畳は見る影もなく裂けた。それは刃物としてではなく、鈍器としての一撃。鉄の塊でしかないスクラップとも呼べるチェーンソーでも、強力な一撃を叩き出す。なら、獲物を使えなくするまでだ。常人を凌駕する怪力で襲ってくる鬼。しかし、その攻撃の軌道は単純で、赤龍には手に取るように解る。そして赤龍は紅鬼の腕を切り落とした。 「我あああああああああアアアアアアアアアくqwえrtyういおp!」 奇声を発しながら男は身じろぐ。 「終わりだ」
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