其の一角 泣いた紅鬼

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時は江戸末期。大乱の時代に滅ぼされた、辺境の大名に仕えていた武士達は使える主を無くし、野武士、ごろつき、はたまた山賊として無力な民を襲い、殺戮(さつりく)と略奪に尽くしていた。江戸幕府もそれを取り締まりきれる事は出来ず、半ば放任状態であった。そんな大乱時以上に混沌とした状態が二世紀半ほど続いている。すなわち『辻斬り』と言うのもこの時代においては聴きなれた言葉であり、さして珍しい事でもない。 だが、この町は明らかに異様だ。三日の間に参拾人。現代で言えば、小中学校の壱クラス分の人数に匹敵する。そんな大人数が、三日の間に斬り殺されたのである。このままいけば、町全員が斬られてもおかしくない。人々はただ、辻斬りの影に恐怖と不安を覚えるしかなかった。 そんな人影の中、他の者とは違った反応の二人の人物がいる。一人は少女。長い前髪で顔の半分を隠し、丈の短い着物をその身に纏っている。少女は、その瓦版を見て、いや睨みつけて拳を握っている。 「また……侍の所為(せい)で……」 少女は自身の怒りをその身に宿したまま、掲示板から去って行った。
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