其の一角 泣いた紅鬼

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「要件は何だ?」 無愛想に赤龍は走狗に問う。 「まあそう急くな」 犬の頭を撫でながら話す。 「お前も今見てきただろうが、この町、近頃頻繁に斬られている。三日で参拾人はどう見ても普通じゃない。そ、こ、で、だ、斬られた参拾人を調べたところその内壱拾人がある共通点を持っていたんだよ」 走狗は軽い口調で言うが、この事が犯人を探るヒントだと知っている。 「罷千野組(ひちのくみ)って知ってるかい?」 赤龍は首を横に振る。 「まあ、ある商人を中心としたゴロツキ共の集まりみたいな物なんだがなあ、どうやらそいつ等がここ最近この町に来て金に物言わせて好き勝手してるらしいんさ。それで、斬られた壱拾人はその罷千野組に目をつけられていた町人だったってわけだ。これ、臭うだろ? 真っ黒い金の臭いがプンプンするぜ」 走狗は犬の顎を撫でながら言う。ちなみにこの犬の名は従狛(じゅうはく)。走狗曰く半身。実際、赤龍は走狗と従狛が離れたところを一度たりとして見たことが無い。彼は走狗がいつも従狛を連れているのを奇妙には思っていたが、彼の持つ情報は早いし正確なので特に口には出さなかった。 「これは俺の仮説だが、罷千野組はかなり腕の立つ侍を雇っている。しかも殺し屋ならまだしも、辻斬りの類だ。標的が壱拾人なのについでに参拾人斬っている事からトビっきりのイカレ野郎だってのが解るぜ」 「そいつらを狩ればいいんだな?」 赤龍の言葉に走狗はようやく腰を上げ、彼を向いて軽薄そうな笑みを口元に浮かべる。
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