其の一角 泣いた紅鬼

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「如何したんですか? こら、烏酉(うゆう)! またお侍さまの刀盗もうとしたのか?」 少女の罵声を聞いて駆け付けたのであろう、老婦人が少女を叱る。烏酉と呼ばれた少女はしかめっ面をして出て行った。 「すいません。あの娘、最近バイトで雇ったんですが、どうも刀が嫌いなようでして……侍さんが泊まる度(たび)、刀を盗もうとするんです」 「…………」 正直、今までよく無事でいられたものだ。いきなり斬り捨てゴメンされても仕方がない。いや、やはり刀を持たねば侍はタダの人か……。刀を奪われた時から、侍達は威厳を失う。ならば、彼女のしている行為は正しいのかも知れない。そんな事を考えながらも赤龍は黙っていた。その時、入口の方から罵声と悲鳴、物が壊される音が響いてきた。 「すみません。今はお客様も居りますのでどうかお静かに……」 「あ~? 困るなあ店主さんよお! 借りた金はちゃんと返さないと駄目だぜえ」 柄の悪い数人の侍が入口を取り囲んでいた。 「借りてもいない金出せっても払う筈ないだろ! 出て行きなよ!」 烏酉が侍達に喰ってかかった。 「あ~? ぶった斬るぞ糞ガキ!」 「五月蠅(うるさ)いで。お前ら」 侍達の列の真ん中から小太りの派手な羽織を着た男性が現れた。 「萬城(ばんじょう)さん!」 侍達が一斉に男性に頭を下げた。如何やら彼がこの侍達の雇い主らしい。萬城と呼ばれた男は、気持ち悪い笑みをたたえて、ゆっくりと烏酉に近付いていく。 「お前ら、解っとらんなぁ。こんぐらいの娘は斬り殺すより、もっと沢山有効活用があるやろうが。ビジネスは合理的にいかんとなぁ?」  萬城の視線が烏酉の頭から足まで絡みつく。不快極まりない、品定めする様な視線だ。烏酉はそれにも屈しず、萬城に文句を言う。 「アンタがこいつ等(ら)の頭か? 借りてない金なんて払う気な……」 その瞬間、侍の一人が烏酉に刃を向けた。黙れと言いたいのだろう。
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