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 警察の取り調べは機械的で、またぞっとするほど冷酷だった。義人は包丁に残った指紋、被害者の血液の滲みこんだ服、金に困っていたこと、何より目撃情報と現行犯逮捕、を元に有罪とされた。無実の主張もしてみることにはしてみたが、自分よりずっと学があり、権力まである人間に囲まれ、恐ろしい声でお前がやったのだろうと責め立てられると、もはやはいとしか言いようがなかった。彼は、自分の主張を曲げずに幾度も控訴するほど、強い人間ではなかったのだ。  しかし法律に全く明るくない彼は、人を殺したとて、数年間刑務所なるものに入っていればよいものかと、ごく簡単に考えていた。むしろ、これくらいの甘い想像をしていなければ、精神がもたなかった。大丈夫だ、今まで酒上に苛められ続けたことも考えると、自分がこれからさせられる生活は、そこまで辛いものではないのかもしれない。いや、きっとそうだ。そうでなければ、神様だって随分酷い・・・しかしこれは、あまりにも幼稚な考えだった。  彼に下されたのは、懲役20年という、あまりにも重い刑だった。違う、本当は俺じゃない、被告席での彼の絶叫は、裁判官たちには諦めの悪い犯罪者の、負け犬の遠吠えとしか受け取られなかった。  自業自得ならまだしも、他人に罪をなすりつけられてこの様では、まさに人生の負け犬であった。義人は絶望し、すすり泣きながら、府中刑務所に護送されていった。
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