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 雨が降っていた。  男は部屋の中から、その激しさを黙って眺めていた。太い水の筋は乱舞する風に操られて狂ったように地面を叩き、その向こうの景色は何も見えなかった。窓の外は、灰色の空を映した雨しかなかった。  男が溜息をつくと、不意に部屋に不気味なほどの白い光が走った。耳を劈くほどの雷鳴と共に消えていくその光の中に、一瞬、室内が映し出される。小奇麗な部屋だ。簡素な二段ベッドが二つ、東西の壁に沿って並んでいた。その二つの間に、前述の男が窮屈そうに立ちすくんでいた。死んでいるかのように、動かない。  しかし無論、彼は生きていた。広い肩は、ほんの僅かにだが、小刻みに震えていた。肩幅だけでなく、身の丈も、握りこまれた拳も、全てが成人男性の平均を全て越えている。髪だけは極度に短く刈り込まれ、逆立っていた。  再び雷鳴が轟き、雨が驚いたかのように縦横に暴れ始めた。男の血走った目が、ゆっくりと床から上げられた。
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