鬼の醜草

1

「・・・落ち着きなさい。とにかく、そんなに酷いことにはなっていないから。」
彼の弱さを見てとってか、老人は彼に数歩歩み寄った。答えはぐえっという、醜い嗚咽だった。
「こ、工場長さん・・・」
見逃せと懇願したのに、いざ即通報されないと分かると戸惑うものらしい。
「皆、眠っています。秘密にしておくことだってできます。その代わり、きちんと話してください。」
そう言いながらも、彼の目はもう少しで奪われそうだったお札の方には全く向けられていなかった。震える男の濁った目だけを、真摯に見ていた。厳しい目だったが、恐ろしさはなかった。
「・・・あんたは菩薩かよ。」
男は小さく舌打ちした。しかし、どうしても従わずにはいられない気迫のようなものを感じたか、いからせた肩に力を入れ、息を大きく吸い込んだ。