序章

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窓からそよ吹く風が生温い。 それは羽生 大空(ハニュウタク)の気分を削ぐ要因の一つだった。 七月の初め、やっと梅雨明けが来たと思えば早朝にはまた雨が降り、お陰で空気は湿気を帯びている。 今は快晴ではあるが、天気予報によると午後にはまた雨雲がやってくるらしく、傘を持参しなかったことを少し後悔した。 大空は教室の机に突っ伏した体勢で、白い文字が次々と羅列される黒板をぼんやりと見つめる。 世界史の授業は退屈だ。 いつもなら、最低限ノートを書き写すことくらいするのだが、今日は気が乗らない。 周りを見回すと、案の定、寝ている連中がかなりいた。 睡魔と格闘しているのか、ペンを片手に頭を一定の間隔でかくかくさせている生徒までいる。表情が恍惚だ。 ひどく滑稽だったので、心の中で笑っておく。
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