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◇ ◇ ◇
土曜日の昼下がり。
時ノ宮宅の一階のリビング。
恭也はソファに座りながら携帯の画面をじっと見ていた。
何やら気難しい表情で。
「あれ……恭也君、どうしたの?」
そんな恭也にリビングに訪れた詩恩が声をかける。
「ん? ああ、詩恩か。……そうだ、お前この場所わかるか?」
「ふぇ?」
向かい側に座った詩恩に、恭也は携帯の画面を向ける。
画面には地図が表示されているが、かなり道が複雑になっていた。
「和馬が待ち合わせの店の場所を地図で送ってくれたんだが、さっぱりでな」
「えーと……」
詩恩はじーっと画面を見つめていたが、やがて目線を画面から恭也に移す。
「うん、知ってるよ」
「ああ、すまん。お前方向音痴だから知らな……って、え?」
「え、えと、あの、だから、知ってるよ」
「バカな! お前がか!?」
人に訊いておいてかなり失礼な態度だが、衝撃がそうさせた。
「あ、あのね、この前この辺りで迷子になって、その、優太君が迎えに来てくれて……」
本当に忘れがちなことだが、彼女は優太や恭也よりも年上である。
そのことは頭に入れてもらいたい。
「それでね、優太君がこの店に行くときのコツを教えてくれたの」
よく出来た弟を持って彼女は幸せです。
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