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しかし、ここで新たな疑問が追加。
「つか、お前絵なんて描けんのか?」
そういうイメージはないが、詩恩はペンを走らせながら朗らかに笑った。
「えへへ、実はね、絵は得意なんだ」
「へぇ」
自信という言葉とは無縁の詩恩にそんな特技があったとは。
「梨恩ちゃんがね、よく褒めてくれたの」
特技を披露できるのが嬉しいのか、詩恩の声は心なしか弾んでいた。
無論、自信があるのはいいこと。
しばらくして詩恩はペンを止める。
「えと、出来たよ。多分、上手に描けたと思う」
「そいつは何よりだ」
余程自信があるのか、詩恩は笑顔で描いた絵を両手で持ち上げた。
「はい、この動物だよ」
訪れたのは衝撃。
走ったのは戦慄。
その心に刻まれたのは恐怖、迷い、痛み、渇望(かつぼう)、絶望。
絶望の闇が希望の光を喰らった。
チラシというお買い得情報の裏に姿を現した一匹の魔物。
その形状を説明するのは至難の業。
頭……というべき箇所は地面に向かって垂れ下がり、闇よりも黒く塗りつぶされている。
手足……というべき箇所は頭同様に漆黒に染まり、でたらめに曲がっている。
身体全体の所々には白い水玉模様。
「…………」
では、問おう。
一体、彼女は何を描いた?
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