948人が本棚に入れています
本棚に追加
“あのね、恭也君。これは世界を滅ぼす魔物だよ”
そう言ってくれたらどれだけ良かっただろうか。
しかし、詩恩は笑顔でこう言った。
「この“動物”なんだけど恭也君は知ってる?」
「…………」
動物?
今彼女は動物と言ったのか?
“ふざけんな、下手過ぎてわからねぇよ!”
と、恭也は厳しく言おうと思った。
思ったが。
「えへへ、今日は上手く描けたなぁ」
御覧の通り、詩恩はとても楽しそうで嬉しそうな笑みを浮かべている。
あの詩恩が。
この状況ではっきりと厳しい言葉を放てばどうなる?
言うまでもない。
詩恩は確実に泣く。
そして、シスコンな妹が確実にキレる。
そうなることだけは瞬時に判断ができた。
できてしまった結果……
「……あ、ああ。知ってる」
言ってしまった。
知っていると。
存じていると。
「ほんと? 良かったぁ」
「…………」
人間とは時に判断を誤る。
誤って優しい嘘をついてしまう。
そして、その優しい嘘は最後に自身を追い詰める。
「えと、それで恭也君」
詩恩はこの絵の“動物”を知っている恭也に問う。
「この動物の名前ってなんだっけ?」
シンキングタイム、開始。
最初のコメントを投稿しよう!