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「あの……恭也君?」
「え? あ、ああ。だ、大丈夫だ。ちゃんと分かってる……」
さすがに詩恩も恭也の様子に違和感を覚える。
今更「実は絵が下手過ぎて分からん」とは言えない。
「…………」
恭也はふと思う。
人生にはどうしてもイチかバチかで賭けなければならない時がある。
それは堅実で現実的な人生を歩んできた恭也も例外ではない。
「その動物の名前は……」
パンダ。
恭也は深読みせず、その魔物の正体をパンダと推測。
これは賭けだ。
ついてしまった嘘。
それが本当になるように、恭也は全てをパンダに賭けた。
真剣な眼差しで詩恩を見据え、恭也は意を決して答える。
「パ……」
「あっ、バクだー」
言葉の途中。
いつの間にかリビングにいた時ノ宮家の次女――由芽が絵を指差す。
恭也は呆然とすると、詩恩は手を叩いて頷く。
「あ、そうだった。この動物バクって名前だった」
「わぁ、これおねーちゃんが描いたの?」
「うん。……えと、上手に描けてる、かな?」
「すっごい上手だよ」
由芽の純粋な感想に詩恩は頬を少し赤らめ「よかった」と嬉しそうに笑う。
「でもでも、どーしてバクを描いてたの?」
途中から入ってきた由芽は状況が分からず、小首を傾げる。
「…………」
呆然としていた恭也だったが、
「……やれやれ」
キリッとしたクールな表情で一言。
「先に言われたか」
とりあえず今度命の恩人にケーキでも買って帰ろう。
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