阿砂呉村

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駅を出て数分歩いた閑静な場所に、遙たちの住む住宅街はあった。 「明日って朝一から英語の小テストだよね、なんか超ブルーはいってんですけど」 千夏はさらにげんなりした様子だった。 遙は千夏の背中を軽くたたいた。 「赤点取ると放課後追試だっけ? お互い頑張ろうね! ゴリケン怖いし…」 『ゴリケン』とは遙たちの担任で英語教師である、盛田健吾朗のことである。 「遙はいいよおー、英語得意だし」 「千夏だって体育得意じゃん」 「…まあね、んじゃ必死こいて勉強しようかね」 「そうそう! ばいばい! また明日ね!」 千夏と別れたあと、遙は自宅のまえで立ち止まった。  遙の家は60坪ほどで、コンクリート造りの3階建てである。 遙が生まれる前に建てられた。 父親の親かたである祖父が、全額を出して建ててくれたらしい。 その祖父は数年前に他界している。 帰途に就く間、千夏は遙の父親の件について少しも触れなかった。 千夏の両親が言い合っているのが、彼女の耳に入ってしまったらしい。 遙の父親が事件に巻き込まれて殺されたなんて、親友の千夏は二度と口にしないのだろうか。 話題といえば、尾賀田花江の噂とそれに関するチェーンメールばかりであった。 気を遣ってのことだろう。 両親の会話を聞いた千夏は、遙にうっかりそのことを喋ってしまい後悔しているのかもしれない。 遙はそう自分を納得させてドアを開けた。
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