阿砂呉村

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「ママ、ただいま」遙は玄関に上がると、すぐ手前にあるダイニングキッチンに向かって声をかけた。 返事がない。 20畳ほどある小綺麗な場所で、母親は遙の帰宅時間にはいつも夕食の支度をしていた。 だが、キッチンに入ると母親はいなかった。 「ママー、いないの?」遙は家中に響き渡るほどの声を上げた。 やはり返事がない。 妙な胸騒ぎを覚え、遙は3階まで駆け上がった。 母親の寝室の前に立つ。 遙は、凍てつく鉄の門に遮られている感覚に襲われた。 身震いしながらドアの取っ手を握り、もう一度声を絞り出した。 「…ママ?」 胸が締め付けられそうになる。 大きく息を吸いこんで、遙はドアを押した。
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