阿砂呉村

16/36
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「…う、ううん……」遙は目を覚ました。 知らぬ間にベッドの上で横になっていた。 オレンジ色の残陽に成りかわり、母親の部屋は月の明かりに照らされている。 先ほど見た女はいなかった。 遙ははっとした。 部屋から飛び出て、隣の自室を確認したあと、母親を呼びながら慌てて階段を駆け下りた。 「ママ! ママ! どこなの!」 遙は家じゅうの電灯をつけ始めた。 2階の3部屋、いない。 1階のリビング、いない。 トイレ、バスルーム、客間、すべて確認したが、母親は見当たらない。 玄関に放った通学用のショルダーバックから、遙は携帯電話を取り出した。 そのままキッチンルームに向かう。 遙は、祈るような気持ちで母親の携帯電話にかけた。 だが、その手が止まった。 「でんわ、それ、けいたいでんわ」目の前に立ちはだかる知らない男が、体格通りの低い声を上げていた。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!