阿砂呉村

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男の体格は、170cmほどの背丈に肥満体であった。 不精に伸びきった髪はボサボサだった。 顔や足に泥のようなものがこびりついている。 着ている青いシャツと綿のタンパンが、その体格で張り裂けんばかりだった。 彼はキッチンルームでゆらゆらと立っている。 その無気力な風体とは対照的に、彼の目つきは獲物を狙う肉食獣のように鋭かった。 「う、は、それ、けいたいでんわ」男の二重顎が揺れていた。 男の右手には、四角い物体が握られている。 ビデオカメラだろう。レンズの部分が確認できた。 「そ、れ、け、け、けいたいでんわ」 遙の開いた携帯電話を、男はもの欲しそうに見つめていた。 その時、男の口端からよだれがツツーと垂れた。 「誰…?」あまりの気味の悪さに、遙は後ずさった。 「ママはどこにいるの?」 「ソ、ソトコは、こ、これな、これないんだって、さ」 男はそう言った。 (ソトコ?)遙は眉をひそめた。
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