阿砂呉村

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だが和室から現れた手は節くれ立っていた。 白いなめらかな母親の手と全く違った。 段々とふすまが開いていき、その手の主が露わになる。 その女は服を着ていなかった。 「あ、ああ…」遙の全身が凍り付く。 女の瞼がない。 目の玉が飛び出ていた。 顔の真ん中には楕円形の穴が2つある。 鼻がなかった。 黄色い歯がむき出しになっている。 唇がなかった。 頭の半分に髪がない。 右の脳みそが浮き出ていた。 体じゅうにある皺が、干からびていることを強調している。 干からびた女だった。 乱れた長い茶髪をゆらゆらと揺らしたその女は「ケイスケ…ケイスケ…」と、か細い声で呟いていた。
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