阿砂呉村

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遙は右手で口を覆った。 「うあ…あ…」胃液がこみ上げてくる。 女が一歩移動するごとに、全身の皮膚が次から次へと滑るように削げ落ちていた。 削げた皮膚とともに、黒ずんだ液体がベチャリと音を立てている。 すでに頬骨は露になっていた。 ぎこちない足取りで、その女がゆっくりと迫ってきている。 「ケイスケ…ケイスケ…」 「来ないで!」遥はドアのノブに手をかけた。 「ケイスケ…」女が請うように片手を差し伸べる。 遙は外に出ようと必死にドアノブを回した。 「開かない! どうして!?」 女があと2,3歩に迫ってきていた。 「……ケイスケ、ブチョ…ウ」 「開いて! お願い!」遙は、家全体が揺れるほどに何度もドアに体当たりした。 女が玄関のタイルに片足をつく。 遙にあと数センチまでの距離だった。
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