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「千夏! 助けて!」遙は親友の名を叫んだ。
女が震えた指先で遙の頬を摩り上げる。
「や、やめて」遥は総毛立った。
剥き出だしになった女の目玉が遥を捉えた。
黄ばんだ歯のあいだから覗く女の舌は、回虫のようにうねうねと蠢いている。
「ひっ!」遥は思わず顔を背けた。
「ケイスケをかえせええ!」
突然、女が金切り声をあげた。
その途端、遙は気を失った。
「う、うう…」遙はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとしながら、遙は男の顔に瞳を凝らす。
「大丈夫か!?」男が口を開いた。
遙は、男の膝の上に頭をのせていた。
遙をかかえたその男は二十歳前後か。
さらさらとした甘栗色の髪で端正な顔つきだった。
遙は、なぜか温かくどこかしら懐かしく感じた。
(お父さん…?)そんな言葉が、彼女の頭のなかを過ぎっていた。
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