阿砂呉村

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1995年 夏。 阿砂呉村。 三上圭介率いる『ミステリ倶楽部』の5人は、バス停であった場所から10分ほど歩いた。 最初に口を開いたのは佐川秀樹だった。 「荷物重いっすよ、あの家でひと休みしませんかあ」 不満げにそう言うと、ドライアイス、缶ビール、瓶ビール、焼酎のペットボトル、酎ハイ缶などを色々詰め込んだバックパックを肩から外した。 佐川のハンディカムを手に持った横越政夫が片眉を上げた。 「おいおい情けねーな、元ラグビー部だったんだろお」 圭介の隣を歩いていた多田真理恵が振り返る。 「私も疲れたよ、のど渇いたし」 彼女は佐川の意見に同調したわけではなかった。 (退屈なんだな、きっと)圭介は真理恵の表情からそう読み取った。 真理恵は刺激を好む女だった。 神戸でお嬢様育ちだった真理恵は、東京にでたのは刺激が欲しいからだと言っていた。 たしかに、無人の廃村を歩き回っているのは退屈に等しかった。 渋谷や原宿と違うのだ。 「じゃあ、入ろうか」圭介は皆を促した。
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