阿砂呉村

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「どうせ飲み過ぎで小便にでも行ってるんだ」 横越が思いついたかのようにそう言った。 無数の星々が放つ異常な輝きが、残された4人の目には不気味に映っている。 「なんだか怖い…」真理恵が口走った。 「ああ」横越が応じる。 陽子は俯き、組んだ両手を額に当てていた。 「佐川さんを…助けなきゃ」 彼女の言葉に、夜空を見上げていた圭介が瞬時に反応した。 「佐川がどうかしたのか?」 横越と真理恵が不安な表情をみせた。 陽子は続けた。 「さらわれた、佐川さんはさらわれたのよ!」 真理恵が陽子の前に立ちはだかった。 「私たちを怖がらせるつもり?? いくら先輩だからって許さないわよ!」 そう言うと、真理恵は陽子の肩を手で突いた。 刹那、4人の来た道から男の叫び声が聞こえた。 「ひっ! な、なんだ??」 横越は悲鳴に近い声を上げた。 真理恵は陽子の頭越しに目をやっている。 「う、うん…いま、遠くからオアーって声がしたよね??」 圭介は真理恵を押しやった。 「ちょ、なにすんのよ!」真理恵が尖った声を上げた。 真理恵を無視し、圭介は陽子の瞳を覗いた。 「陽子、いまなにが起こっているんだ? 佐川はどうなったんだ? 知っているだけでいい、教えてくれ」 彼は艶のある陽子の黒髪を撫でた。
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