ソトコ・ブルータル

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「よ…陽子! よかった! 生きてた!」 「ママ!?」遙は母親の名前に瞬時に反応して、男の膝から飛び起きた。 「ママ…?」男が怪訝な表情で、遙の言葉をそのまま返した。 遙は座ったまま、畳に両手を突いて辺りを見回す。 昼間のような日差しによって、遙には初めて見る室内だと認識できた。 茶色に変色したふすまは破れている。 足が折れて傾いている座卓。 倒れてドアが開いた冷蔵庫。 縁側の窓の外は、裏山に面した雑草だらけの庭。 遥自身、ジーンズに白い開襟シャツ姿でいる。 「ここはどこなの?」遙は額の汗を拭った。 閉めきった部屋は真夏のような暑さである。 「ここなら安全だ」暑いからだろう、男は白い顔を赤らめていた。 遙は男の正面に向き合った。 「あなた…誰?」 男が立ち上がった。細身の長身だった。 茶髪を真ん中分けにした髪型で、白いT-シャツにジーンズ姿。 テレビの特集でみたことのある、一昔前に流行った容姿のその男は、その整った顔立ちを少し歪ませていた。 「誰って…それはないだろ、俺たち一緒に逃げてきて、突然、陽子が気を失って…あ、もしかして記憶喪失になったのか?」 「ママはどこなの?」遙は一番訊きたい疑問を投げた。 その瞬間、遙の頭のなかで別の声が聞こえた。 〔ごめんね…ケイスケを助けてあげて…サガワさん、ヨコゴシさん、マリエさん、みんな殺された〕 それは母親のベッドに腰掛けていた、あの女の幼い声だった。
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