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しばらくすると、ケイスケは何故か面を喰らったかのような表情になった。
「陽子…お前、まるで別人のようだよ」
遙は、そうだよ別人だよ、と言う言葉を呑み込んで拳を胸の高さにまで上げた。
「私、友達を死なせた悪い奴らを警察につきだしてやるから!」
ケイスケは首をふった。
「マリエたちは死んでないよ、あいつらと同じ狂人になってしまった」
(あいつら? 狂人??)遙は狼狽した。
女の声がした。
〔マリエさんは、液体をかけられて殺された…サガワさんは撲殺され、ヨコゴシさんは〕
そこで女は言葉を切った。
「ヨコゴシさん??」遙は思わず声を上げた。
ケイスケが頷く。
「…ヨコゴシは連中に食われた、殺されたはずのマリエやサガワも連中と一緒に彼を食ってた……陽子、いまこの村で何が起こっているのか本当に忘れてしまったのか?」
そう言うと、ケイスケは遥を胸に抱き入れた。
「俺だって忘れてしまいたいよ」彼は続けた。「でも仲間があんな風にされてしまったのは、事実だ」
「嘘…信じられない」遙は、ケイスケの腕のなかで身震いした。
〔そう、怨念が村民の屍を歩かせた〕女は言った。
刹那、庭に面した窓から人影が見えた。
「ウ…ウアアア、ア」
呻くような声を出しながら、薄汚れたブラウス姿の女が全身を露わにさせた。
ぎすぎすに痩せ細ったカラダ。
焦点の合わない濁った目玉。
その女のあんぐり開いた口の周りには、まるでスパゲッティーのソースのように血の塊がへばり付いていた。
(一体どうなってるの?? 私はどうなったの?)
帰宅後の未知なる境遇や、この不気味な女に遙は動転した。
「アア、ア」ぎすぎす女が、遙たちを求めるかのように窓にのしかかる。
「来やがったな」ケイスケは遙の手を引いた。「ここを出よう」
恐怖に震えた遙は、言われるがままケイスケについていった。
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