夢幻の館

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 灰色の景色、モノクロな世界。  そう形容すべきだろう。私の視界のすべての人や物は沈鬱な色に染まりきっている。  空を仰ぎ見てみる。  今日び快晴の予想も外れたのか空模様は曇りがちになっていた。  互いの関心を振り払うように人々が行き交う、そんな街中にひとり佇む。  携帯電話の会話、二人組の学生の笑い声、横断歩道を渡る雑踏、近場の屋外ライブの大音響。  この都会の喧騒もいまは遠く聴こえる。  耳障りでストレスのもとにしかならなかったそれはただの小さな雑音だ。  私の目と耳はおかしくなったのだろうか。  ――ちがう  おそらく、私はこの世界から切り離された存在なのだろう。  64億/1のちっぽけな存在がこの世から消え去ったはずだ。 「――だって私は死んだのだから」  確かめるかのように私は呟いた。
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