夢幻の館

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 私はいつの間にか学校に来ていた。おそらく無意識に足がその方向へと向かって行ったのだろう。  誰からも視認されない私は堂々と校舎に入り、長い廊下を歩いてゆく。  周りは下校時を越え、やけに静かになっていた。やがて、たどり着いた美術室の前で僅かな逡巡。  少し躊躇っていたがいまは誰にも見えない。そう思い直し私はドアに手を掛けて引く。  そこに彼はいた。  数日前に迫った絵画コンテストに出す未完成の絵を見詰めながら物憂げな表情をしている。  彼だけは私に気付いた。予め来る事を予期していたのか振り向いてはいつものように笑ってみせる。 「待ってたよ。やっぱり君がいないとこの絵は作れないなぁ」  多分、彼の耳にも私が亡くなった事故の事柄は行き届いているはずだ。 「…………」  私は彼の変わらない接し方や態度に少し驚いた。きっと今の私は幻のようで希薄なのだろうがいつもみたいに快く迎えてくれている。奇妙で夢みたいだけどそれが何処か嬉しかった。 「久しぶりだよね。来てくれると思ってたんだ。じゃあ、準備も出来てるし早速始めよっか」  頷いて私は彼の隣の椅子に座り、自然な流れで絵を描き始めた。鉛筆の下書きに緩慢な動作で色を慎重に塗ってゆく。  彼は一方的に話し掛けるが私は頷くことしか出来なかった。それでも彼は満足そうに笑う。
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