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夕焼けに染まりつつある頃合いに私達は絵を完成させた。今までで最高傑作だと言い張れる渾身の出来だ。
「本当にありがとう。君のおかげで絵が完成したよ。これなら間違いなく入賞するかもね」
彼は快活に笑っては文字通り自画自賛する。入賞間違いない、と私もそう思えた。
「……うん。そうだね」
消え入りそうな声で呟く。思い出の場所を訪れて、彼にまた会って、絵を完成させて、私の現世に対する未練はもうない。
彼は急に静かになる。そして、真剣味をおびた眼差しで私に訊いてきた。
「やっぱり行くんだ?」
「うん」
私はもっと生きたかった。
両親から虐待を受け、誰かから強姦を受けたとかそんな辛い過去があってもそれでも生き続けた。
「そうか、悲しいな。もう会えなくなるなんて。此処もまたひとりになっちゃうな」
居場所が出来たから生きてこられた。彼のおかげで。
「絶対に忘れない。君と過ごせて本当に楽しかった。大切な思い出だった。だから絶対に忘れない。……忘れないから」
最後の辺りはわかりやすいほど涙声だった。
――だけど最後だからこそ面と向かってお別れを告げないと
「ありがとう、私も君の事は忘れないよ」
私は出来るだけ明るく微笑んで彼を元気づけた。気付けば私も涙で頬が濡れている。
「――さよなら」
短く綺麗な声が室内に響き渡る。彼女はもうその場から消えてしまった。
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