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Side 氷冬椿輝
なぜか眠れなくて、近くにあった森に入った俺は、どこからか音が聞こえてきたような気がして立ち止まった。
「こんな遅くに誰かいるのか?」
口から出たのは、普段と違う口調。普段学校では丁寧な口調をつかって、したくもない笑顔でポーカーフェイスをしている。正直疲れるのだ。
「あ…」
いつの間にか目の前には開けた土地が広がっていた。その中心には、大きく立派な桜が月光を反射して光っていた。
「…」
そのときに気づいた。音は美しい音色で、幽かに歌が混ざっていることに。
「…綺麗だ…」
ふらふらとそちらに足が動く。
そして息を飲んだ。
美しかった。
黒髪黒目の、真っ白な服を来た少年が、薄く目を伏せ、微笑みながら音を紡いでいたから。
そのまま思わず凝視をしていると、不意に音が止んだ。
「…そこにいるのは誰ですか?」
澄んだ優しい声だった。
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