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「ところで、あんた。この街じゃあ、見ない顔だねぇ」
……そして、また話題が変わる。聞きたいことだけを聞いてる系のやつだろう。いいようにされてむかつくが、危険人物は刺激するべきではない……が、すでになんだかエンジンがかかっているような……とにかく答える。
「……まあ、最近来たばかりなんで。でも、こっちだってあなたのこと見かけませんでしたよ?」
「そりゃ、今まで出かけてたからね。お役目ってな面倒さ」
お出かけ。お役目。……うーん、どこかから出張帰りの、重役の人、か?
はい関わったら面倒そうな人確定と。もうなりふり構ってられん。
「そうですか。……それじゃ、これで顔見知り、ということで。またどこかでお会いしたときはよろしく。では失敬──」
「まあ、待ちなよ」
「ぐげっ」
ダメですか……。
再度首根っこをつかまれる。喉に来るのでせめてもっと別のとこつかんでほしい。
げほげほしてると、どこかすっきりした様子の女が、上……方々の屋根で回り続ける風車を見るともなく見て、言った。
「──この街の風はいいね。やっぱり。あんたもそう思わないかい? エーヴェ・ムゴー君」
「……」
こいつ、俺の偽名を……やはり初めから知ってて接触してきたのか。なぜ?
滔々と女は続ける。
「“うち”のギルドへ入るんなら、“洗礼”を受けてもらう必要があったんだけど……あの子が許したんだろう。ま、それはいいさ。今から、やるんだし」
洗礼……確実にいい意味のものではないのだろう。
なぜなら、こちらの(偽)名を呼んだあたりから、少しづつ危ない予感が大きくなってきているからだ。
「おっと、名乗ってなかったね。
あたしはギルド“すきま風”のギルドマスター、アイラ・エルギメフさ」
ギルドの、マスター。まあ偉い人だろう。
そういえば、ギルドではそういう上役みたいな人を全然見かけてなかった。
その女が獰猛に笑い、殺気の圧が膨れ上がる。
「──ようこそ、あたしのギルドへ。それじゃ始めようか。
あんたの力を、あたしに見せなァ!!」
いや、なんでですか?
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