6788人が本棚に入れています
本棚に追加
/215ページ
それは、夏の夕暮れ。
西の空に太陽が傾く頃になっても、うだるような熱さが襲ってくる。
そんな猛暑の中、俺たちは脇目も振らずに坂道を登っていた。
「疲れたよぉ……足、痛い……。あたし、もう歩けない……。もうお家、帰るぅ……。遅いと、怒られるもん……っ」
俺の背後から、そんな苦しげな声が訴えてきた。
呆れながら振り返ると、白いワンピースを着た幼なじみの少女が、テコでも動かぬとばかりにしゃがみ込んでいた。
「あと少しなんだから、頑張れよ!」
そんな彼女に俺は容赦なく立たせようと声をかけるが、全く動こうとはしない。
それどころか、泣きそうな顔をして『帰りたい』と嘆く始末。
俺自身も相当疲れてはいるが、この少女にアレを見せたいがために強がっていた。
「ったく……ほら、乗れよ!」
「――えっ?」
痺れを切らした俺は彼女に背を向けると、しゃがみ込んで後ろ手に手を差し伸べる。
最初のコメントを投稿しよう!