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赤い赤い夕焼けだった。
西で火事があったところで、夕日から煙が出ているんじゃないかと勘違いしそうなくらいに赤かった。
正面から西日に当てられている僕は、目を細めながら学校からの帰路を歩く。手にはいくつかの駄菓子が入ったビニールを提げて。
まさか六年生にもなって、上履きを誰かに盗られたくらいのことでこんな時間まで残らされるとは思っていなかった。
「泣くんだもん、担任」
名前も覚えちゃいない彼女だけれど、「このクラスでこんなことが起こるなんて悲しい」とか言っていた。
さくさくとうまい棒を食べながら、彼女の不細工な泣き顔を思い出してみる。
結局、犯人が名乗り出てくることもなく終礼を済ませたけれど、涙声で連絡事項を伝えるあの痛々しさは筆舌に尽くし難いものがあった。
自分が小賢しいだけの小学生と知ってなお、彼女よりは精神年齢が高いと言えそうだ。
社会科の授業で習った『英雄の無力化』の弊害で冷え切った世間では、彼女のように暑苦しい人格というのはさぞ生きにくかろう。
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