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背負った黒のランドセル、握りしめた駄菓子入りのビニールが激しく揺れる。
遠くでサイレンが鳴っていた。消火活動が始まる前に辿り着けるだろうか。
煙目指してひた走る僕。
行けども行けども近付く気配はないけれど、一目見たいというモチベーションは足を前へと押し出していく。
「いやいや……遠すぎるだろ……」
走るのが困難になるくらい息が切れて、僕はようやく立ち止まった。
ランドセルと背中が、汗に濡れたシャツを繋ぎにくっついたみたいだ。
膝に手をついて、アスファルトを見つめるような形になる。首を伝う汗が不愉快だった。
顔だけを上げて、再び煙を見る。
少し近付いたようだけれど、まだまだ遠い。
煙の白が目立つ暗くなり始めた空の中で、地平線の一点が紅く光っている。
走ればすぐに着きそうだった火災現場はどうにも逃げているように見えた。
届きそうで届かない場所だから、じっと見つめていた。だから――――それに気付いた。
「なんだろう、あれ」
一瞬、黒い点が見えた気がした。すぐに下の方に落ちていったので、見間違いかもしれない。
……いや、見間違いじゃない。二度目はさっきより大きく見えた。
それが何を意味するのか、分からないほど馬鹿ではないつもりだ。
「近付いてきてる……?」
落ちては現れを繰り返しながら、その点は大きくなっていく。
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